第五幕 「あなたは婚約者を愛してますか」

遅まきながら第五幕の感想です。


アルベールとマクシミリアンの間に不和が生じ、アルベールはますます伯爵への憧憬を深めていく、ストーリー全体の肉付け的な一話。
地底湖の描写は水平線や天井が霧や霞で覆われ著しく距離感を失って、美しい風景とは裏腹に潜在的な不安感を見る側に与える。六分儀と時計を思わせる巨大な歯車も、所在の掴みづらさとその巨大さ、唸るような機械音から夢の中の出来事であるかのような浮世離れ感が強く、後の伯爵のセリフに符号するかのような美術設定となっている。
いくら前振りで貴族と庶民を対峙させるような会話を続けさせたとはいえ、マクシミリアンとアルベールの決闘が少々唐突に思える。マクシミリアンは伯爵に催眠術でもかけられたかのような描写あり(幻覚のように周囲で瞳がパチクリするの良かった。好きだーこういうの)。でもアルベールはたぶんいつも通り。第五幕にしてもはや視聴者に微笑ましいとも思わせるような無分別ぶりを発揮。第四幕で伯爵に貰った剣があっさり湖の中へ。てっきり最終話への伏線になると思ってたのに…。
そして物理法則を無視した伯爵の斜め跳びー(演出です)。
「これは夢です。すべては・・・夢現・・・」
伯爵に助けられ、洞穴で暖を取るアルベール。己の貴族としてのアイデンティティを揺るがされ、精神的に不安定になっているところへ伯爵の言葉。
「私には見えるのです。あなたの胸の内に眠るもうひとりのあなたが・・・」
「あなたは今、大きな不安を抱えている・・・そして私も」
「伯爵も・・・?」
「私にはあなたが必要なのです。・・・我々はあの日、ルナで知り合いました。あなたはそれを偶然と感じているかもしれません。しかし、運命には偶然などは存在しない。あの沈む陽が大宇宙の法則であるように、運命もまた、動かしがたい必然で成り立っているのです」
傷ついた少年に自分も同じように不安なのだと告白し魂の傍らに忍び寄る。そしてお前が必要なのだと訴え、その出会いが必然の運命であるとまで言い放つ伯爵。たとえアルベールでなくとも、多感で傷つきやすいが同時に夢見がちで大人の世界に憧れている年頃の少年なら伯爵に傾倒してしまうのもむべなるかなといった感じです。
そしてなぜこのシーンが伯爵の屋敷ではなく、美しい景色の湖畔でもなく、薄暗い斜陽の洞穴なのか。それはもちろん仲間と隔離された二人だけの空間であること、アルベールの不安を洞穴の薄暗さが暗示し、しかし伯爵との会話では焚き火や光りの差す方向を向いていることから伯爵との未来に暖かさや希望を感じていること、さらに穿ってみれば胎内回帰のメタファーであるかもしれないことなども考えられますが、実は


このシーンを良く見ると洞穴の形は円弧となって水平線の歯車と共に巨大な○○○になっており、二人はその中心にいてあたかも巨大な○○○に見つめられているかのような絵になっているのです。


「もう伯爵と付き合うのはよせ。お前最近おかしいぞ」
「そうだな。おかしいよな・・・なにかが・・・なにかがおかしいんだ。昨日まではなんでもない毎日だったのにな。なにかが・・・裏側に隠されているような気がするんだ・・・。・・・運命・・・とかって考えたことあるか?」
その夜、再び母親の憂悶な横顔を見てしまうアルベール。このカットではメルセデスと伯爵の対峙が良く出来てていい感じ。背景も綺麗。ペッポにはからかわれ、ユージェニーには怒られるアルベールの立場の無さもセリフが小気味良いし俳優が上手く、よく出てて面白い。後半でフェルナンやダングラールに仕掛けていくシーンを入れる必要があり、そこが前半のテンポとあまりにも違っていてただ淡々と進めるだけでちょっと散漫な印象を受けたけど仕方ないのか。もし構成を変えていたらこの回全体の印象がもっと立っていたかも。